買収への抵抗感 |
|
M&Aの必要性と抵抗感資本市場の論理には、『できるだけ少ない投下資本で、できるだけ短期間に、多くの利益を得る』という考え方が根本にありますが、一方で競争により適材適所を作り上げる仕組みでもあります。これは、競争的社会が保たれる限り、基本的には強いものがより強くなり、弱いものは淘汰されることが、経済全体にとってはプラスとなるという考え方です。 市場での競争に敗れた企業や、次世代を支える事業となることを期待し、まだインキュベーションの段階であるなどの理由で救済措置などが手当てされるケースがありますが、これらを続けているうちに弱い者をを弱いまま少しでも長く生き長らえさせること自体が目的化してしまい、最終的に企業が経営破綻するのを待っているのではコストが高くなってしまいます。しかし、M&Aを利用すれば、非効率的な企業に対して早いタイミングで対応できますので、経済性が高く企業救済に伴う社会的コストも低く押さえることができるのです。 例えば、何回もの債務免除を繰り返しながら現在も立ち直れないでいるダイエーなど、日本においてM&A市場がもっと発達していたならば、あれほどの時間とコストをかけずにもっと早期に退出させられたはずです。破綻企業に対する支援をひたすら続け企業内に残された資源を浪費するよりも、M&Aによって早期の段階で会社を整理してしまった方が社会的コストも低く済んだはずであり、むしろその方が望ましかったのではないかと思えます。 敗者復活戦(一度キャッシュで回収して次の事業に投資する)が必要とされる社会システムが作られなければ、多くの事業家は輩出されませんが、まず強者がより強くなる仕組みがあり、行き過ぎを正しながら社会がそのベネフィットを享受することが重要なのであって、新陳代謝を行わなければ機会ロスを生み出し、今後益々激しくなる国際競争にも勝ち抜いて行くこともできません。 M&Aは友好的にしろ敵対的にしろ、放置していれば敗者になりかねない事業の価値を、いち早く生かすことができる買い手が関与して、より強くすることを可能とする手段といえるのです。 マクロ的観点からすると、今後は日本でもM&Aの件数が大幅に増加すると考えられ、このことは資源の効率的配分の観点から国民経済的にもよいことといえます。しかし、ミクロ的にみると、日本ではM&Aとりわけ敵対的買収に対する抵抗感が依然として強くあります。その要因としては、労働市場の流動性が低いため調整コストが大きいことや、既得権益の存在などがあげられます。その結果、合併買収・提携交渉においてターゲット企業側では、極力現状を変えまいという強い誘因が働きます。 このような状況の中、経営統合を強行しようとすれば、結果的に敵対的買収にならざると得なくなってしまうのです。しかしその一方で、2006年の王子製紙と北越製紙の敵対的TOBでは、日本国内での敵対的TOBの難しさを改めて印象づけ、歴史と伝統のある業界のトップ企業による同業のTOBさえ、敵対的TOBを成立させるのは大変困難のです。 |
|